介護保険制度の基本理念と「福神漬け」の話し


今日は、介護保険制度の基本理念と「福神漬け」の話しです。

介護保険の基本理念は3つあります。

1. 自己決定の尊重
2. 生活の継続
3. 自立支援(残存能力の活用)  です。

このうち、1.自己決定の尊重 ですが
行政や専門職は、高齢者本人の決定を情報提供やサービス給付で支援し
ますが、決定権はあくまでも本人にあるとする考え方です。

これまでの老人福祉では、サービスの決定は市町村がするもので、利用
者がサービスを選択することは出来ませんでした。

この、本人が決定すると言うのが、介護保険制度の基本理念のひとつと
なっています。


この、「本人が決定する」と言うのを良く理解して頂いたうえで、次に「福
神漬け」の話しです。


訪問介護ヘルパーの鈴木さん(仮名)36歳 女性 から伺ったお話しで
す。

担当の利用者さんは馬場さん(仮名)さいたま市在住78歳 女性 一人
暮らし 要介護1です。

約2年半、生活介助を中心に訪問サービスを受けておられます。

馬場さんは要介護1ですが軽い認知症です。
ご家族は娘と息子、大阪と静岡に住んでおられます。

生活介助として、週に2回、買い物と掃除、洗濯ですが、買い物で毎回
必ず買ってきて欲しいと頼まれるのが「福神漬け」なのです。

そして、馬場さんはこの福神漬けを食べることがありません。

当然のことながら、福神漬けは山のようにたまって行きます。
ついに、この福神漬けに蛆虫が湧き出しました。

ウジ虫の湧いた福神漬けを処分していいかと聞いたところ、馬場さんは
絶対に捨ててはいけないとの事でした。
そして、買い物には必ず福神漬けを頼まれます。

冷蔵庫の中には、他にも腐敗した食料品が多数ありますが、こちらは状
況を説明すれば処分に同意されますが、なぜか福神漬けだけは決して処
分に同意されません。部屋中がその腐敗臭に満たされてもです。

ヘルパーの鈴木さんは、息子さん、娘さんに連絡をとりました。当然の
ことながらすぐに処分して欲しいとの同意を得ました。

そこで鈴木さんは、馬場さんが気づかないようにウジ虫の湧いた福神漬
けを処分しようと思いましたが、念のために所属する訪問介護事業所の
責任者に相談しました。

その責任者からの回答は、「介護保険の基本理念に照らし合わせると、本
人の決定を尊重すべきで、娘、息子さんは本人ではないので、本人に無
断でウジ虫福神漬けの処分はあいならん。」と言うものでした。

鈴木さんは毎日、福神漬けの買い物を続け、溜まって行く福神漬けを手
をこまねいて見ているしかありませんでした。


「成年後見人制度」と言うのがあるのを鈴木さんは思い出しました。
息子さん、又は娘さんが家庭裁判所に申し出て、成年後見人として選任
されれば、その成年後見人の判断で福神漬けを処分することができるの
ではと思い、施設の顧問弁護士に聞いて見ました。

弁護士さんの見解は以下の通りでした。

成年後見制度は精神上の障害により判断能力が十分でない方の保護を図
りつつ自己決定権の尊重、残存能力の活用、 ノーマライゼーションの理
念をその趣旨としています。 よって、仮に成年後見人が選任されてもス
ーパーでお肉やお魚を買ったり、お店で洋服や靴を買ったりするような
日常生活に必要な範囲の行為は本人が自由にすることができます。

したがって、福神漬けの処分についての決定は成年後見人の権限の範囲
外である可能性が高い。

と言うものでした。

もう一つ
介護保険制度が始まってからの日が浅いため、本件に関するような判例
がない。との事でした。

鈴木さんは今でも福神漬けを買い続け、溜まって行く福神漬けを横目に
ヘルパーの仕事をこなしておられます。


この話しを、現役のヘルパーで介護福祉士、当校の講師先生に聞いて見
ました。

「そんなの常識で考えてくださいよ。利用者さんのスキを見つけて捨て
ればいいんですよ。なにか言われたら、うまくまとめるのがヘルパーの
仕事なんですよ。」

この先生は介護保険制度の基本理念を理解されていないかも知れません。

でも、こちらの見解のほうが正しいと思うのは、私だけでしょうか。







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