突然認知症になった松下さんの話し


今回は、いきなり認知症になった松下さん(仮名)のお話しです。

松下さん(仮名)85歳 女性 さいたま市在住 息子夫婦と同居、ご主人は8年前に他界、孫を含めた5人家族です。

松下さんは歳相応に体力の衰えや物忘れとかありますが、特に生活に支障なく暮らしておられました。
家は農家で、収穫した野菜を毎日、家の前の路上に作った100円ショップの小屋にならべるのが山崎さんの仕事です。

高血圧と神経痛のため週に1回程度、近くの病院に通っておられます。

病院へは義理の娘さんに車で送ってもらい、診察が終われば携帯電話で娘さんに連絡を取り、迎えに来てもらいます。

健康のため、月に1回程度は自分で歩いて病院へ行き、帰りに角の八百屋さんで30年来の付き合いがあるおやじさんと世間話しをし、買い物をして帰るのが日課です。

ある日、松下さんは、病院の帰りに行方不明になってしまいました。

心配した家族が捜索願いを出し、区役所の地域放送で呼びかけたところ、夜10時過ぎに発見されました。
脱水症状もあるため病院へ搬送したところ、中度のアルツハイマー型認知症と診断されました。
行方不明になったのは認知症の中核症状、場所の見当識障による徘徊と推測されるとのことでした。

徘徊と言うのは、かなり認知症が進行してから起こるもの。

今まで何の問題もなかったのに、家族にとっては「びっくり」状態でした。

徘徊などの認知症の周辺症状は、いきなり発症して起こるものではありません。
時間をかけて徐々に進行して行くものですが、これまでだれも気がつかなかったのでしょうか。

いや、実は松下さん本人は自分がおかしくなっている事に気がついていたかも知れません。

認知症の方の傾向として、自分がおかしくなっている事を隠す、取り繕うと言うのがあります。
徐々に記憶障害が進行して行きますが、周りの人に知られずに何とかしようとするわけです。

会話のなかで、いわゆる「オウム返し」と言われる言動が見られる様になります。
記憶が全く抜けてしまっているため、それを取り繕うために相手の言葉をそのまま返して取り繕う訳です。

「きのう、みんなで食べに行ったお寿司は美味しかったね。」
「そうそう、きのう食べに行ったお寿司は美味しかった、美味しかった。」

本人は全く記憶がなくても、同じ言葉を返して取り繕うわけです。
これで周囲のかたが認知症の発見が遅れてしまうようになります。

松下さんは自分なりに工夫して生活しておられたと思われます。
たとえば日時の見当職障害。今日が何月何日で、今が何時かわからなくなります。カレンダーを見てもわかりません。
カレンダーに毎日チェックを入れてもだめです。
チェックを入れたことを忘れるからです。

ですが、携帯電話を活用すればこれらは解決できます。
携帯電話には今日が何月何日で今何時かが正確に表示されるからです。
「グーグルカレンダー」と言うアプリを使えば、病院へ行くなどのスケジュール管理もできます。

日常生活に大きな変化がないのも、松下さんが医学的に中度の認知症であったとしても生活に支障がなかった理由のひとつでした。

一人で病院へ行って帰ってくるのも、同じ曜日に、慣れ親しんだ同じ道を通って、変化のない日常生活で支障が少なかったと思われます。

では、どうして松下さんは、いきなり帰り道が分からなくなり徘徊となってしまったのでしょうか。

原因は、長年慣れ親しんだ、角の八百屋さんにありました。

八百屋のご主人も高齢化によって営業を続けることが困難になって、八百屋を廃業してコンビニになったのです。

松下さんは、慣れ親しんだ交差点の角にある八百屋がなくなってしまったため、帰り道がわからなくなってしまったのです。

そして、捜索、発見、病院、中度の認知症の診断、となった訳です。


今回、私が言いたいことは二つあります。

一つ目は、初期の認知症の発見は案外難しく、発見されたときには、かなり進行している場合がある。
二つ目は、認知症の方にとって環境の変化が少なければ、ある程度、支障なく生活を続けることができる。
と言うことです。





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